遺留分~最低限の遺産を請求できる権利

もしも、亡くなった夫が「愛人に全財産をあげる」という内容の遺言書を残していたら・・・・
妻や子供のこれからの生活はどうなってしまうでしょう?
路頭に迷ってしまうのではないでしょうか。

そういったことにならないように、民法は「一定の相続人が最低限受け取ることができる相続割合」を規定しており、これを
「遺留分」といいます。

<遺留分の相続財産に対する割合>

相 続 人 遺留分の割合
配偶者のみ 2分の1 配偶者2分の1
子のみ 全員あわせて2分の1

長男、長女の場合長男4分の1、長女4分の1

直系尊属のみ 全員あわせて3分の1

父、母の場合
父6分の1、母6分の1

兄弟姉妹のみ 遺留分なし(※)  
配偶者と子 全員あわせて2分の1

配偶者、長男、長女の場合
配偶者4分の1、長男8分の1、長女8分の1

配偶者と直系尊属 全員あわせて2分の1 配偶者、父、母の場合
配偶者6分の1、父12分の1、母12分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者が2分の1 
兄弟姉妹は遺留分なし(※)
配偶者2分の1

(※)
被相続人からの関係が遠いことや、代襲相続によって相続人になった甥姪にまで遺留分を認めると相続関係が複雑になってしまうなどの
理由から、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められていません。


<遺留分の権利行使に関する改正点>

相続人の遺留分を侵害する内容の遺言であっても、侵害している部分が無効になるわけではなく、遺留分の権利をもつ者が受遺者または受贈者(以下、受遺者等といいます)に請求することで、はじめて侵害された部分を取り戻すことができます。

遺留分に関する民法の改正前(2019年6月30日以前)は、遺留分権者は「遺留分減殺請求権」を有し、受遺者等に対して遺留分減殺請求権を行使した結果、不動産や株式等の財産が共有の状態になり、自宅を遺贈等された配偶者の保護が不十分となったり、事業用財産を遺贈等された当該事業の承継者にとって事業承継の支障となっていました。

そこで、遺留分に関する民法改正後(2019年7月1日以降)は、侵害された遺留分を取り戻す請求を金銭債権に一本化することで、財産の共有関係が当然に生ずることを回避することができ、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重することができるようになりました。(遺留分侵害額請求権といいます)

ただ、遺留分権者に遺留分侵害額請求権を行使された受遺者等が金銭をすぐには準備できないかもしれません。
そこで、受遺者又は受贈者の利益を図るため、受遺者等の請求により、裁判所が金銭債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができるようにしました。

<遺留分侵害額請求の方法>

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間以内」に受遺者等に対し行使することができます。
行使の方法としては、受遺者等に「遺留分侵害額請求権を行使する」という意思表示をすれば足り、裁判所への訴えを必要としません。
なお、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」遺留分侵害額請求権を行使しない場合、または「相続が開始した時から10年を経過した」ときは、請求権は時効により消滅してしまうため、時効の進行を止めるために、実務上は配達証明付き内容証明郵便を送付する方法をとることが多いです。